青い空、黄金色の麦畑、真っ赤な夕日、燃え盛る炎、天使の影、歯や爪、死神のような黒光りするキャデラックの輝き、まるで夢のような風景の数々──。『柔らかい殻』は絵画、小説、舞台、児童文学とジャンルを超えて才能を発揮、その独特な幻想的世界で人々を魅了し続けているイギリスの鬼才フィリップ・リドリーが1990年、自ら脚本と監督を手掛け、その強烈なイマジネーションを余すことなくスクリーンで解き放った初の長編監督作品だ。公開時、ロカルノ映画祭では銀豹賞を含む五つの賞を受賞、シッチェス国際ファンタスティック映画祭で最優秀女優賞、最優秀撮影賞を受賞ほか各国の映画祭でセンセーションを巻き起こし、1992年の日本の公開時にも熱狂的なファンを生んだ、まさにヤン・シュヴァンクマイエルやデヴィッド・リンチに次ぐ、二十世紀最後の鬼才が放つカルト映画といえよう。この度、リドリー監督の監修のもとリマスタリングされたデジタルリマスター版で初めてスクリーンに蘇る。一見非合理なように思える、痛みと欲望、性と悲しみに満ちた大人たちの世界は、少年の瞳にはどう映るのか。本作はひとりの幼い少年の眼差しを通し、悪夢のような子供時代と、私たち誰もが経験するであろう恐怖と不思議、世界のありとあらゆる恐怖を絵画のように美しくも強烈なイメージとともに対峙させる、世界でたった一つの衝撃の傑作である。
小麦畑の広がる田舎町にて、気弱な父と厳しい母と三人で暮らすセスはごく普通のやんちゃな男の子。セスは友人のイーブンとキムと共に孤独なイギリス人女性ドルフィンに仕掛けたいたずらがばれ、母に謝りに行かされる。ドルフィンの家は捕鯨の銛や骨で埋め尽くされており、彼女が語る亡き夫への愛や悲しみの話は衝撃的かつ、父が読んでいた吸血鬼小説の絵に彼女がそっくりだったことから、セスはドルフィンが吸血鬼に違いないと思い込んだ。そんなある日、行方不明になったイーブンの死体が井戸で発見されるという痛ましい事件が起こる。セスはドルフィンを疑うが、自分の父に容疑がかかり、悲劇が連鎖してゆく。